成年後見制度の活用

成年後見制度とは

成年後見制度とは日常生活において契約をする際に、認知証や知的障害などにより本人の判断能力が低下し、正常な状態での契約が困難な場合に、本人に代わって、または、本人を支援する形で、本人の権利擁護の為に様々な契約の締結などを実現する制度です。

成年後見制度は介護保険制度の導入と同時期に成立した制度です。

では、なぜ成年後見制度というものが生まれたのでしょうか。

すべて国民は個人として尊重される:日本国憲法13条

2000年の介護保険制度の導入以前における我が国の介護制度というものは措置という形態をとっていました。この措置というのは、国が用意した介護のプログラムに自動的に従う、つまり介護は国から与えられるというものでした。

障害者であろうと高齢者であろうと人間は個人として尊重され、自己の人生は自ら決定する権利があります。しかし、介護のプログラムを措置という誰もが変化のない共通の形で与えられては、個人個人の人生は変化を生むことが少ないものとなってしまいます。

その人の人生にとって本当に充実した人生とは、誰に押し付けられるものでもなく、その人自身が選択した人生そのものなのではないでしょうか。

このように、措置という形で全員統一的な介護プログラムを与えるのではなく、自らが自らの意志に基づき介護プログラムを選択し、たとえ介護を受ける老後の人生であったとしても自己の人生の充実が実現できることを目的に介護保険制度・成年後見制度が導入されました。

契約とは

始めに、契約ということについて説明させてください。

コンビニでコーヒーを買い、切符を購入して電車に乗る。お昼に、中華料理店で食事をし、仕事帰りにCDを買って帰路に着く。

このように物を買ったりサービスを受けたりすることはすべて契約といえます。
日常生活は契約の繰り返しです。

契約というと、不動産を購入したり、銀行からお金を借りるといったように何か大きな取引を書面を交わしてするといったイメージを抱きます。しかし、契約のそもそもの原理原則は当事者同士の意思の合致です。つまり、相手に契約の意思を表明し相手が受け入れる。これにより契約は成立します。

さて、なぜ始めに契約の話をしたかというと、成年後見制度は契約そのものだからです。

措置から契約へ

介護保険制度の導入により、我が国の介護プログラムは従来の措置(国が与える)から契約(自らが選択する)に形を変えました。

具体的には介護状態となったときに受ける介護サービスにより説明することができます。現在の介護保険制度では介護を必要とする度合いにより要支援・要介護の合計7区分に等級分類されます。
(介護を必要としない状態であれば非該当となります。)

要支援・・・要支援1、要支援2

要介護・・・要介護1、要介護2、要介護3、要介護4、要介護5

介護等級が決定されたのち、どんな介護サービスをどの程度利用するといった計画(ケアプラン)を各個人が作ります。

その後、実際に介護サービスを受け始めるわけですが、この介護サービスを受けるという行為そのものが契約となります。

つまり、受ける介護サービスは等級によることはもちろんですが、個人により千差万別です。なぜならそこには、個人の意思による介護サービスの選択という行為があるからです。

自分にとってどのような介護サービスが良いのか、自分にはどのような介護施設が合いそうなのか。それらを選択するのは自分自身であり、国家が一律的に介護の環境を与えるものではないからです。

そこに個人としての尊重があり、自分の人生は自分で決めるという自己決定権が存在するのです。

契約が必要なのに、契約ができなければ・・・

契約をする際に、本人の意思能力が正常であれば、なにが正しくてなにが間違っているといった判断能力が通常は正常に働きます。結果、契約というものは正常に成立します。

しかし、介護サービスの享受といった契約が必要にも関わらず、認知症や知的障害などにより本人に契約を締結すべき正常な意思能力・判断能力がない場合、どうしたら良いのでしょうか。

そこで成年後見制度の活用が考えられるのです。

成年後見制度では本人の判断能力の低下度合いにより、成年後見人・保佐人・補助人といわれる者が本人の契約行為を代理・支援します。

本人が行う契約行為は成年後見人等の代理や同意がない限り有効に成立しません。
有効に成立しない契約である以上、仮に契約が結ばれてしまったとしても、取り消しが可能となります。

日常生活でも成年後見制度の活用を

ここまでは、契約ということを介護サービスにおける契約行為ということで説明してきましたが、なにも契約するということと成年後見制度の活用は介護契約に限ったわけではありません。

成年後見制度は判断能力が低下した状態にある方にとって日常生活全般で非常に有効な制度です。

人は年を重ねるにつれ判断能力の低下を避けて通ることができません。
また、判断能力の低下に気付かずに日常生活を送っている方もたくさんいます。

そうしたことにつけこみ、詐欺の手口で法外な金額の契約を強引に結ばせる悪徳業者なども大勢います。

2005年に埼玉県の認知症の姉妹が悪徳リフォーム詐欺に合い、家を競売にかけられるというたいへんショッキングな事件が報道されましたがこのように正常な判断ができないまま契約を結んでしまうということがあります。

成年後見制度は、こうした契約のトラブルを防ぎ、安心した日常生活を送るという意味でもたいへん有効な制度なのです。